春の訪れを感じさせる暖かい日差しの中に、レンガ造りの大きな建物が見える。そよ風がそっと、建物を通り過ぎ、その先の広場の芝生を揺らす。次の瞬間
ゴチャ……
生首が、落ちてきた。先程まで青く生い茂り、柔らかに揺れていた芝生がゆっくりと赤く染まる。殺し合いが起こっている。悲鳴と怒号が絶え間なく聞こえてくる。あるものはなす術もなく殺され、あるものは目の前の現実を受け入れる事ができず、立ちすくむ。
シュウヤ「なんで、なんでこうなった。なんでいつもこうなるんだ」
広場の中心にいた一人の少年もまた、この地獄絵図を前にして動けずにいた。
シュウヤ「こ、こんなの、訳がわから……」
アミゴル「わからんうちに、殺されてしまうのさ。アミーゴ」
シュウヤ「な!?」
いつの間にかシュウヤは背後をとられていた。一瞬にして背中に鮮烈な痛みがはしる。何かで斬りつけられたようだ。思わずのけぞり地面を転がる。
アミゴル「何もわからないまま死ぬ。それが君の人生さ。アミーゴ。ここで弱い奴は……」
言い終わる前に、彼の姿が二重に見え出す。襲ってきた彼の背後に、西洋騎士のような何かが立っているのをシュウヤは確かに見る。しかし、見えたと同時にその騎士の剣は、シュウヤの腹を貫いていた。
アミゴル「ピンチョ・モルーノ(串焼き)になるのだから」
体を、鉄の塊が貫く感覚。痛みで身体が熱くなっていく。逃れようのない死が近づいてくる中で、シュウヤは自分の過去を反芻する。
シュウヤ(ああ……やっぱりな。なんで……こんなクソみたいな人生になったんだよ)
時は少し前に遡る。地獄絵図とは打って変わって、そこには日常が流れていた。夕焼けに照らされた街並み、どこにでもあるような学校、なんてことない住宅街、聞き慣れた音を出す踏切。誰がどう見ても“平凡“な景色がそこには広がっていた。しかし、その景色の中に、明らかに“平凡”とは言えない様子で歩くシュウヤがいた。
シュウヤ「……」
シュウヤから見えるこの街の景色は“平凡“とは言い難いものであった。学校を見れば、寄ってたかって殴られ、蹴られた喧嘩の傷が痛み、幾度となく舐めさせられた便座の味を思い出す。住宅街を見れば、家で父が四六時中飲む酒のにおいと、その後に憂さ晴らしのように始まる”しつけ“の痛みを思い出す。それは間違いなく日常ではあった。しかしシュウヤにとっては日常こそが地獄であった。
シュウヤ「うっ……!あの、クソ親父が!」
今日の父からの”しつけ“はいつにも増して酷かった。父は空になった酒瓶を投げつけ、怒鳴り散らし、最後にはシュウヤの数少ない心の支えとなっていた死んだ母との思い出を貶した。気づいたらシュウヤは思わず家を飛び出していた。物心ついた時からの地獄の日々に慣れきり、耐えていたシュウヤの心も、とうとう崩れてしまった。絶望と悲しみに暮れ、傷で痛む体をよれよれと歩かせる。誰が見ても、何かあったとわかる風貌。しかし街の人々はシュウヤの異変に気づかない。それが彼を一層惨めにする。そして思わずひと気のない路地裏に飛び込み、シュウヤはいつもと同じように自問した。
シュウヤ「なんでこうなった……なんでいつもこうなるんだ。なんで悪い方向へ進んでいく……」
そして思わず飛び出るこの言葉。
シュウヤ「なんで!!こんなクソみたいな人生になったんだよ!!」
それは答えなんてあるはずのない問い。だけど今夜だけは、それに答えるものがいた。
?「そうだよねえ。なんでそんなことになっちゃったんだろうねえ。可哀想に」
ねっとりとした、いやらしい低い声。シュウヤは思わず固まる。
?「なんでこんな人生に?こんなはずじゃなかったのに?どうして?どうして?どうしてだろうねえ〜?」
声のする方へ、シュウヤは恐る恐る顔を上げる。そこにいたのは、不思議なマントを羽織り、シルクハットを被った”何か“だった。人間かすら怪しいそいつは、気にせず話を進める。
?「知りたくないかい?その”答え“を」
シュウヤ「は?」
普段だったら恐ろしくて声も出なかっただろう。だが、自分が今絶望のどん底にいるのに、全てを見透かしたような舐めた態度。その言葉に少しイラッときた。
シュウヤ「そ、そんな事に答えないんてないだろ」
?「んふ!んふんふ!あーあ、君もそういうこと言うんだ。みんなそうやってすぐ“ 答えがない” って答えを出したがるよね」
シュウヤ「いや、答えのない問題なんていくらでも……」
?「ないよ」
”何か“が急に力強く否定する。シュウヤは思わずまた固まる。その時の威圧感、悪寒で確信する。やはり目の前にいるのは人間じゃない。
?「答えのない問いなんてない。君が!いや、君たちが求めてやまない答えが、ここにある!」
シュウヤ「え、ここ?」
?「そう。ここ」
シュウヤ「え……この路地裏に?」
?「あー、厳密に言うと君の足元くらい?」
シュウヤ「へ?」
思わず足元を見る。あったはずの地面は、自分の周りだけくり抜かれたように無くなっていた!その先にあったのは宇宙のような空間。自分の目を疑う暇もなく、体は当然のようにまっさかさまに落ちていく。
シュウヤ「ういやあああああああああ!?」
落ちた先にあったのは、もう彼の知っている路地裏ではなかった。永遠に続く宇宙、星、光。シュウヤはその中を永遠に落ち続けている。しかし、そんなことは気にせずに、あの”何か“は一緒に落ちながら喋り続けている。
?「君の答えを聞くまでもなく、君は既に“ 答え” を求めているねえ!なんでこんな人生になってしまったのか?なんで周りの人間は自分を毛嫌いするのか?なんで自分はどこに行っても馴染めないのか?なんで父親は酒狂いのクズなのか?なんで……」
”何か“は落ちるシュウヤの顔に近づき、呟く。
?「自分にしか見えないものが、見えるのか?」
シュウヤは思わず目を見開いた。物心ついた時から、ずっと自分に付き纏ってきたもう一人の自分。自分にしか見えない分身。その分身に常に見られているような感覚。その事を言い当てられたような気がした。初めてだった。その事を他人に認識されたのは。自分以外に、自分の中の“能力”について知っているものは居ないと思っていた。一生剥がれるはずのなかった疎外感から自由になれるかもしれない。そんな予感に身震いした。
?「君に必要なのは、学ぶことだよ。それの使い方を!その能力がなんなのかを!そして自分がなんなのかを!!今から行くのはそういうとこさ」
シュウヤ「そこに行けば、わかるのか?オレが知りたい“答え”が?」
?「さっきからそう言ってるじゃないか。“ 答え” は全部、ここにある。改めて、入学おめでとう!ようこそ “ 学園” へ!!」
まばゆい光がシュウヤを包み込み、段々と降下が緩やかになっていく。どこかに足がついた。確かめようと目を開ける。
シュウヤ「ここは……」
目の前に広がる光景は先程までとは、まるで違った。澄んだ空気、広がる青空。そして目線の中心にある巨大なレンガ造りの建造物。城のように大きく、中心には紋章のようなものが光り、その横には巨大な時計塔が見える。それはまるで異世界の……
シュウヤ「……学園?」